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FRBは輪転機を回さない

  • 2008/07/22(火) 22:52:22

 今日は前回のお約束どおり、「アメリカが輪転機をまわしてドル紙幣を世界にばらまく」という主張がどうして二重の意味で間違っているのか、少なくとも不適切な言い方であるのかについてお話したい。

 さて「アメリカが輪転機をまわしてドル紙幣を世界にばらまく」と言う人を、評論家やマスコミ人も含めて良く見かける。

特にアメリカ・ユダヤ陰謀論者は、「ユダヤに支配された」アメリカあるいは民間企業・FRBが「輪転機で紙切れに100ドルと印刷するだけでシニョレッジを稼ぎ、世界からタダでモノを手に入れている」という「驚愕の事実を発見」して敵意をつのらせるわけだが、それは明らかに間違っている。

 ドルに限らず、何も通貨をつくれるのはFRBや日銀・ECBのような中央銀行だけではない。

普通の銀行のような金融機関だってつくれるのである。もちろんシティや三菱UFJが偽札をつくっているわけではない。

たいてい経済学や金融論の教科書の最初の方に、通貨には現金通貨預金通貨の2種類があると書いてある。

現金通貨とは、我々のお財布に入っている紙幣やコインのことであり、これはFRBや日銀などによって発行されているが、では預金通貨とは何か。

預金通貨の代表例は、皆さんの預金通帳に印刷されている預金残高の数字であり、金融機関同士を結ぶオンライン回線やコンピューター上をかけめぐるデジタル信号となって移動するので、目に見えないし触れることもできない。

それでは金融機関はどうやって預金通貨をつくるのか。

三菱UFJでもみずほ銀行でも良いが、あなたが金融機関から100万円お金を借りるとする。

その時あなたの通帳の残高に100万円がプラスされて印刷されるが、この瞬間金融機関はお金をつくったのである。(信用創造)

金融機関は手持ちの現金が100万円増えていなくても、100万円貸すことができる。

それを我々が窓口で現金として引き出せば見たり触ったりすることが可能になるが、預金通貨で何かの支払い(送金)をして残高が100万円差し引かれればそれっきりである。(もちろん100万円の借金を金融機関へ返済しないといけないが)

企業であれば、銀行に約束手形を割り引いてもらって企業の預金残高が増えた瞬間、預金通貨はつくられたことになる。

 では金融機関は好き勝手にお金(預金通貨)をつくって良いのかというとそうではない。

金融機関は、自らが保有する現金よりもはるかに多くの貸し出し(顧客の預金残高)をかかえているのが普通だから、預金者全員が一斉に窓口に来て預金全額を現金にしたいと要求されるとお手上げである。(いわゆる取り付け騒ぎ)

預金者が全員押し寄せなくとも、金融機関が保有する現金よりあまりに多くのお金をつくる(貸し出しをする)と取り付け騒ぎの危険性が高まるので、中央銀行は、各金融機関にある一定の割合での支払い準備金を用意するよう義務を課す。

支払い準備金とは、保有する現金通貨とその金融機関が中央銀行の口座に持っている預け金からなる。

そして、金融機関は顧客の預金残高の何パーセントを支払い準備金として持っていないといけない、逆にいえば支払い準備金の何倍までしかお金をつくってはいけないという義務を負うわけである。

日本の各支払い準備率

ということは、中央銀行がつくる現金通貨より普通の金融機関がつくりだすことができる預金通貨等の方がはるかに多いことが容易に予想できる。

現金・現物決済しかできないド後進国(そんな国いまどきあるのか?)ならいざ知らず、信用経済の発展した先進国であるならば、どこだってそうであろう。

 お金が社会にどれくらい供給されているかを示す指標はいくつかあって難しいのだが、最近の日本の場合M3・マネーストックと呼ばれるものを採用しているようである。(昔はM2+CDだった)

で、預金通貨や準通貨(定期預金や外貨預金)、郵便貯金、農協や信用組合などの預貯金を含めたM3全体は1033兆円もあり、そこから政府・日銀が発行した紙幣やコイン(現金通貨)72兆円を差し引くと、961兆円はだいたい中央銀行・日銀以外がつくったお金と考えても良いと思う。(全てではないかもしれないが)

日銀データ(PDF)

この961兆円は少なくとも日銀が発行した紙幣ではない以上、日銀が輪転機を回してシニョレッジを荒稼ぎしてタダでモノを手に入れたと非難するのは単なる八つあたりである。

アメリカとて同じで、2008年6月末のFRBが発行した紙幣など現金残高が7710億ドル、それに対し預金通貨と準通貨(M2-Currency)だけで6兆9150億ドルもある。

FRBデータ 

流通する通貨の主力をなす7兆ドル近いお金はFRBがつくりだしたドル紙幣では無い以上、「ユダヤが支配する民間企業FRBが輪転機をまわしドルを増やしてシニョレッジ荒稼ぎ」なんて、トンデモ理論のエセ経済学もいいところであることがおわかりいただけたと思う。

 この紙幣・コイン(現金通貨)以外の預金通貨を商業銀行など民間の金融機関がつくっているというところに話を戻すが、景気が良くて銀行からお金を借りる人が多くなると、銀行はついついお金を多くつくりだし(貸し)すぎて、顧客への貸しだし(預金)残高に対する支払い準備の割合が、中央銀行が定めた規定量より少なくなってしまうことがある。

その場合、銀行は金融機関だけが参加できる短期金融市場(インターバンク市場)からお金を借りて支払準備金を積み増し、準備率のパーセンテージを上げなければならない。

だが、お金を借りるといっても大量の紙幣が動くわけではない。

中央銀行にある、お金を貸した方の金融機関の口座残高を減らし、お金を借りた方の金融機関の口座残高がその分増えるよう、中央銀行が操作するだけである。

あるいは中央銀行が民間金融機関が持つ債券(国債など)を買って、その金融機関が中央銀行に持つ口座残高の数字を増やしてやる場合もある。(買いオペ。その逆は売りオペ)

お金を借りようとする金融機関が多ければ、インターバンク市場の金利は上がるし、借り手が少なくてお金がダブつけば金利は下がる。

その金利こそが経済ニュースにひんぱんに出てくる政策金利と言われるもので、中央銀行はお金を供給したり減らしたりして、その金利が政策金利として掲げられた目標値に近づくよう誘導するわけである。

(政策金利:日本0.5% アメリカ2% ユーロ圏4.25%)

日銀の場合、一日の通貨の供給量・吸収量は少ないときで3000億円ぐらい、多いときだと1兆円は動かす。

つまり中央銀行は、政策金利や金融機関の支払い準備率のパーセンテージを上げ下げすることで、お金を増やしたり減らしたりしているのであって、必ずしも中央銀行自らが紙幣を印刷したから増えるわけではない。(支払準備率の上げ下げは日本ではめったに行われない。中国は良く行う)

政策金利や準備率を上げればお金の量が減る方向へ圧力がかかり、それらを下げれば、お金は増える方向へ圧力がかかる。

政策金利の上げ下げは、中央銀行における会議で決められるが(日本=金融政策決定会合 アメリカ=FOMC EU=ECB政策理事会)、中央銀行が自分勝手にお金を増やしたり減らしたりすることは出来ず、アメリカの場合でも経済の動向を見ながら、アメリカ国民が選んだ議会によって承認されたFRB議長が数人の理事で構成される会議を取り仕切って決めるわけである。

国民が見ているなかで経済の実情を無視した政策を中央銀行がとれば、経済全体が大混乱に陥ってしまう。

だから「正にお金を増やす目的のためだけにお金を増やす」ようなことは出来ないし、FRBの株主が通貨量を決めているわけでもない。

これで「ユダヤに支配された民間企業FRBが勝手に紙幣を刷ってお金をひねり出し、タダで世界からモノを買った」うんぬんなんて馬鹿げた都市伝説の一種だということがお分かりいただけたと思う。

少なくとも先進国では、お金の大部分は中央銀行が紙幣を刷ったから増えたわけではないし、よってそれでシニョレッジを稼いでいるわけでもない。インフレや対外支払いの問題があるから、中央銀行が勝手に通貨の量を増やすこともできない。

紙幣を刷るからお金が増えるというよりも、民間の金融機関などがつくった預金通貨が増えたことによって、それを現金として引き出そうとする人の割合も増えるから、それに対応するために中央銀行が紙幣を多めに用意するといった方が実態に近いのではないか。

政府が国債を発行し中央銀行に直接引きうけさせ、中央銀行が紙幣を刷ってその国債を買えば、紙幣を刷って通貨が増えることになるが、そんなバカなことをするまっとうな先進国なぞ無いし、そもそも法律で禁じられているところがほとんどだろう。

もしそんなことをやる国があるとしたら、インフレ率が200万%を超えるハイパーインフレ国ジンバブエぐらいか。

いや、すっかり忘れていた。あの韓国ならやるな。

韓銀の高位関係者「韓銀には紙幣の発行といった手段があるため、為替市場への介入財源は無限」

http://www.chosunonline.com/article/20041122000063



これが韓国銀行(韓国の中央銀行)の幹部の発言というから私には信じられない。韓国の大学の経済学のレベルを疑う。

韓国の金融システムを先進国レベルのそれと思い込んでいると大変な目にあうだろう。

ノムヒョンが「私は韓国を東アジアの金融ハブにする」とか言っていたが、奴にしては面白いジョークだったと思う。おっと話がそれた。

 だいたい紙幣を刷ってシニョレッジを稼ぐのがユダヤの陰謀だというなら、イラン人がイランの商業銀行にお金(イラン・リアルの預金通貨)をつくって(貸して)もらい、それを窓口で引き出してアメリカドルに両替し、アメリカにおいてイラン人がそのドル紙幣で買い物をしたら、イランは何も無いところからお金をひねり出し、アメリカからタダでドルとモノを手に入れてしまったことになる。

とんだユダヤの陰謀もあったものである。

日本の主婦が100万円の証拠金に10倍のレバレッジをかけて1000万円相当のドルをアメリカから手に入れたら、これもユダヤの陰謀か?

 これが「アメリカが、FRBが輪転機をまわしてドル紙幣を世界にばらまいている」という主張が間違っている理由の一点目である。

ここまでは別に新自由主義経済学がどうだらとか関係無く、ふつうの経済学士程度の知識だと思うのだが、あの程度のトンデモ理論エセ経済学に引っかかる人が多いのには驚かされる。

ちょうどうちのコメント欄でも、アメリカ・ユダヤ陰謀論者が程度の低さをさらけ出しているが、彼らが貧富の格差の下でそれに不満を覚えるならば、その原因はグローバリゼーションうんぬんよりも経済とお金に対する知識のあまりの低さにあるのではないか。

そして経済の知識が低いからこそ、アメリカ・ユダヤ陰謀論者のエセ経済学にひっかかるのではないだろうか。

(何らかの事情で四年生大学に行けなかった人も、このエントリーを読んでわからないところは自分で調べて理解できるようになれば、レジャーのためだけに大学に行った人なんか問題にならなくなると思う。しかもウチは学費が
タダ<笑>)

あるアメリカ陰謀論者が「これから増やすべきは人民元資産」と言っていたが、その言葉どおりに上海総合指数が6000ポイントあたりで中国株や香港の本土株に投資して、バブルがはじけて2600ポイントに暴落した今、うまいことハメこまれてしまった日本人はどれくらいいるのだろう。

話が予想外に長くなったので、「アメリカが輪転機をまわして~」の二つ目の間違いについては最終回で触れよう。

つづく

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この記事に対するコメント

これは素晴らしくわかりやすい!!
私は、マネーサプライ=M2+CDと覚えていたんですが、ちょっと時代遅れになりつつあるようですね。

ちなみに、アメリカ(ユダヤ?)陰謀論は、1950年代から1960年代のヨーロッパでも若干流行ったみたいで、今さら大発見をしたように、したり顔で説いている人を見ると何とも痛々しい。

むしろアメリカがドルを「刷らなく」なったら、そっちのほうが大変です。(という内容は前回のエントリに書いていらっしゃいましたっけね?)

  • 投稿者: 高峰康修(猫研究員)
  • 2008/07/22(火) 23:43:18
  • [編集]

高峰康修(猫研究員)さん

>これは素晴らしくわかりやすい!!

どうもありがとうございます。

これで「難しくてわかんない」という声ばかりだったらどうしようと内心考えていたところです。


>マネーサプライ=M2+CDと覚えていたんですが、ちょっと時代遅れになりつつあるようですね。

私も、日銀でマネーストック=M3が採用されているなんて最近知りました。

>むしろアメリカがドルを「刷らなく」なったら、そっちのほうが大変です。

ドル=需要と考えれば、中国の莫大な輸出品が行き場を失いますし、アメリカや中国の需要激減は一次産品の価格を暴落させるでしょうから、ロシアやブラジルのような新興国も困るでしょう。

グローバリゼーションは貧富の格差を広げたなんて言われていますが、単なる嫉妬でしょう。

じゃあ皆が平等に貧乏だった昔に戻せとでも言うのでしょうか。

それでは途上国の人があまりにも気の毒です。

  • 投稿者: クロフネ@管理人
  • 2008/07/23(水) 22:29:46
  • [編集]

「マネー」教育の必要性

経済とお金の関係は、小中学校の教育体系では一切教えられません。ですから、基本的にここの知識が欠落するのです。もっとも、政府としてもこの部分だけは「愚民化」させたいのかもしれませんが、資本主義を蛇蝎のごとく嫌う日教組と利害が一致しているのも、何だかなぁ・・・。

便宜上、お金と「マネー」とにわけて、基本的なところが説明できる教育が小学校レベルで出来ないもんですかねぇ・・・。

陰謀説を、ネタとして笑い飛ばす教養は、年齢が低ければ低いほど良いと思うのですが。

  • 投稿者: クマのプータロー
  • 2008/07/24(木) 06:17:21
  • [編集]

クマのプータロー さん

>経済とお金の関係は、小中学校の教育体系では一切教えられません。ですから、基本的にここの知識が欠落するのです。

どこかの私立小学校だったと思いますが、子供たちに株式投資について教えているところもあるようで、なんだか子供のうちから格差が始まっているような気がします。まあ、どちらが良いかはわかりませんが。

せめて中学3年か高校生になったら、基本的なところは教えられるようになると良いと思います。

>陰謀説を、ネタとして笑い飛ばす教養は、年齢が低ければ低いほど良いと思うのですが。

陰謀説ももちろんですが、「中央銀行が輪転機を回すことによってお金が増えている」と誤解している良い大人もかなり多いのではないでしょうか。

経済関係ではなくとも、首相はもちろん全閣僚・全国会議員が知識として知っておくべきでしょう。

政治家・官僚の金融オンチ・軍事オンチがGDPの割に日本の政治・外交力が小い原因ではないかと。

  • 投稿者: クロフネ@管理人
  • 2008/07/24(木) 23:01:20
  • [編集]

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