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第27回 華夷秩序は復活するか?

  • 2006/07/29(土) 01:23:39

前回、「中国がアメリカやEUの助けを借りなくても、自力で発展できるようになった時、そして中国が政治・軍事・経済で世界一になるようなことがあれば、中国が世界に遠慮する必要はもはやなくなる。 そうなれば中国は自らの国益のためにアメリカやEUさえも力ずくでねじ伏せにかかるだろう」と言った。

 それでは、もし中国が政治・軍事・経済の各分野で世界一になるようなことがあった場合、国際社会はどんな姿になるのであろうか。

その重要な手がかりが、二千年以上に及ぶ東アジアの歴史に残されている。

 現在の国際関係のベースは、17世紀以降の近世ヨーロッパで形作られた。

具体的に言えば、ドイツ三十年戦争(1618~48)の帰結としてのウエストファリア会議の開催以降、経済力や軍事力などを含めた国力の大小はともかく、たてまえとして主権国家同士は対等・平等とされ、条約や国際法が主権国家同士の関係を規定するような国際関係が徐々に形成されていき、二度の世界大戦を経て現在のような姿に発展していった。

帝国主義の時代では、欧米列強による侵略と世界分割が行われ、列強の植民地とされた地域や被保護国には、主権国家としての権利は与えられなかったが、20世紀以降かつての植民地・被保護国のほとんどが独立し、「主権国家同士は平等」という現在のような世界秩序が形成されていった。

ところが、東アジア世界では遠い紀元前の昔から19世紀の終わりまで二千年以上にわたって、現在のような国際関係とは全く違う原理が支配する世界だった。

それが中華思想に基づく華夷秩序である。

 中華思想とは

「中国発祥の儒教文明・礼教文化こそ世界最高のものであり、世界で唯一かつ最高の文明のゆりかごとなった中国こそ、世界の心で、世界で唯一、文明のを咲かせた地である。

よって中国の支配者・皇帝は天下に君臨し、中国の周囲にいる文明さえ知らない野蛮な異民族に、世界最高の中華文明を与えてやる存在であり、文明を与えられる野蛮な異民族は中国皇帝に感謝し、遠くからでも中国皇帝に貢物を持ってやってくるのである」

といった、非常に差別的な思想である。

(歴史上、こういった差別的な思想は、中国以外にも存在していたが)

 この中華思想に基づいて、東アジア特有の国際関係である華夷秩序が形成された。

まず世界の中心には皇帝の居城があり、その周囲に中国の領土・正州がある。

そのまわりを都督府のような統治機関の統括下に異民族が自治を許された羈縻州(きびしゅう)が取り囲む。 代表例は唐時代のベトナム北部や内モンゴルである。

さらにその周囲には、官爵をさずけられ中国皇帝と君臣関係を結んで中国に貢物を奉げる異民族の王が支配する冊封国がある。 

冊封国の支配者は、中国のように皇帝という称号を使用することは許されず”王”を名乗り、臣従の証として中国皇帝から印章と暦を受け取り、自らの国の戸籍を提出した。 朝鮮半島はほとんどの時代、中華王朝の冊封国だった。

華夷秩序のもとでは、一応ここまでが文明が及ぶ世界である。

さらにその周囲には、中国皇帝を慕って貢物を奉げる使者を送ってくる野蛮な異民族の国・朝貢国がある。 日本やカンボジアなどがここに含まれる。

そしてその外側には、中華文明が全く及ばず、中国に敵対する極めて野蛮な異民族が住む対敵国がある。 モンゴル、チベット、大食(イスラム帝国)、ローマ帝国など欧州諸国などがそれである。

これが華夷秩序の支配する世界である。

 華夷秩序というのは、もちろん中国人自身が考え出した世界観であって、必ずしも現実とは一致していなかったし、周囲の異民族もそうした世界観を受け入れるとは限らなかった。

その時代における中国自身の国力の大小によって、同じ国が羈縻州であったり冊封国であったり朝貢国となったりと変化し、冊封国といっても中国皇帝と王の君臣関係は象徴的なもので、中国皇帝の支配力が臣下である王に全く及ばないこともあった。

たとえば朝鮮半島の場合、中国が強大だった紀元前1Cの漢の時代、武帝に征服されて楽浪郡など四郡を置かれたころは羈縻州のようなものであったが、中国が分裂し弱体化した4C後半の広開土王の時代の高句麗は、中国の支配を離れて対敵国となり、13世紀にモンゴル(元)に征服された高麗は冊封国となった。

また、中国自身が衰えれば周辺国に攻め込まれて冊封国や羈縻州を失い、中国本土さえもが異民族に征服されることもあった。

この世界では国家や指導者同士の対等・平等は全く保証されておらず、唯一の文明国である中国とその支配者・皇帝が絶対上位で、その他の国とその支配者・王は絶対下位という極めて不公平な関係が固定化された世界であり、中国以外の国同士の関係では、民族固有の文化を捨てて中国文化を忠実にコピー(徳化)した国ほど上位に来るという世界である。

 それでは華夷秩序という思想の典型的な例をあげてみよう。

以下は、清帝国第六代・乾隆帝からイギリス国王ジョージ三世への国書の一部である。

「汝(ジョージ三世のこと)の大使が自分の目で確かめたように、
朕(乾隆帝)は(この世の)全てを所有して余すところがない。」

「王よ(ジョージ三世のこと)、お前は心から文明を求めているようだ。
お前は使節を送って深く頭を垂れ、朕の誕生日に際して国書を差し出し祝辞を述べた。また、お前の国の産物を献上することで、よく誠意を示してくれた」

 次は中国文明を熱心に模倣し、大中華(中国)に対して小中華を自称した、朝鮮王国における例である。

52ページ 「ヨーロッパは文明の中心地つまり中華帝国からあまりにも遠い。したがってロシア人、イギリス人、フランス人、ドイツ人とベルギー人は人間というよりもずっと鳥や獣のように見える。彼らの言語は鳥がちゅんちゅん鳴くように聞こえる。」
「キリスト教なるものは卑俗、浅薄で間違っている。下劣な野蛮人の慣習の一例である。」
42ページ 「キリスト教はその野蛮な教えで世界を汚染しようと努めてきた。その天国と地獄物語で大衆をだましている。」
50ページ 「中華帝国は、なんと壮大で光栄なことか!中華帝国は世界最大で一番豊かである。世界の最も偉大な人物は全て中華帝国の出身であった。」

(朝鮮王国学部大臣 申箕善編集 「儒教徒の緯度と経度便覧」
1896年 )

 中華思想と華夷秩序のもとで中国は、中華文明とは異質の文化を持つ外国を徹底的に蔑視してきたが、逆に外国の支配者が、中華文明の優越性や自国より中国の方が上位であり中国皇帝に臣下の礼をとることを認めた場合には、非常に寛大な姿勢を示した。

中国の優越性を認めた外国と中国の間の交易では、「世界で唯一かつ最高の文明国の支配者である中国皇帝は、周辺の野蛮な異民族の支配者に寛大なところを見せなければならない」ということになっていたため、中国との交易を望む者は、献上した物より何倍もの価値がある中国皇帝からの返礼品を期待できた。

 このように超大国・中国が絶対上位でその他の国が絶対下位という関係が固定された秩序である、華夷秩序が、二千年以上の長きにわたって東アジアの国際関係を規定してきた。

その華夷秩序に思わぬ挑戦者が現れた。欧米の帝国主義列強である。 彼らのアジア進出によって華夷秩序は大きく揺らいだ。

1876年にコーカンド・ハン国が併合されたのを最後に、清に朝貢していた西トルキスタン諸国をロシアに制圧され、1885年に清仏戦争に敗れて清はベトナムの宗主権を失い、1886年までの3度に及ぶ戦争でイギリスが清の朝貢国ビルマ(ミャンマー)を手中にした。

冊封国・朝鮮は華夷秩序の最後の砦であったが、それにトドメを刺したのは日本だった。

日本はほとんどの時代、中国皇帝の支配下に入ることを潔しとせず、日本の支配者は、中国皇帝の臣下を意味する王ではなく天皇を名乗るなど、日本人は中国からすれば常にナマイキな蛮族だった。

19世紀に産業革命を達成して、日本はアジアで初の近代的な立憲国家となった。

その日本と戦った1894年の日清戦争で清はあっけなく敗北し、華夷秩序の最後の砦・朝鮮の宗主権を失った。

その後の中国は、辛亥革命と国民党政権を含む軍閥割拠の時代、日中戦争、国共内戦、中国共産党独裁体制の成立という流れになるが、清帝国の没落や戦乱・共産主義の誤った政策によって、すっかり国力が衰えてしまった。

 しかし90年代の改革開放政策によって中国は飛躍的に経済力・軍事力を高め、21世紀になり日本と並ぶアジアの大国として蘇りつつある。

これによって中国が100年ぶりに華夷秩序を復活させられる条件がそろったわけだ。

 現在の中国は一見近代国家のようではあるが、北京にいる皇帝(国家主席)が宦官(共産党官僚)の助けを得て、藩鎮(地方勢力)を牽制しながら広大な中国を統治するという具合に、統治システムにおいて、かつての専制王朝と大差ないのが非常に懸念される。

また、ウイグルやチベット・内モンゴル自治区や朝鮮族自治県のような植民地・羈縻州を統治し、北朝鮮やミャンマーといった”属国”を周辺において寛大な条件で援助を与えているし、”中国の偉大さ”に敬意を払う東南アジア諸国や中央アジア諸国にも心の広いところをみせる。

中国は”平等互恵”という言葉を好んで使用するが、この言葉が適用されるのはこうした国々だけで、かつての華夷秩序を彷彿とさせるものだ。 

 そして”中国の偉大さ”に敬意を払わず、従おうともしない日本に対してだけは牙をむき、中国は力ずくで日本をねじ伏せて、華夷秩序に従わせようとしているようにみえる。

日本は100年前に”栄光の華夷秩序”にトドメを刺した張本人であり、19世紀末からの日中間の歴史を思い出しては、中国は日本に深い恨みの眼差しを向ける。

92年の今上陛下の訪中時、中国側は陛下に印鑑を贈ろうとしたことがあったという。 これは外務省関係者のとっさの機転で断ったと聞いたが、受け取っていたら大変なことになっていた。

前述のように華夷秩序においては、中国の都へ行き、中国の支配者から印鑑を下賜されるということは、中国の支配者の臣下になるという意味を持っているからである。

長いこと日本は中国に対する大援助国だったが、中国側は日本からの援助をたいてい合作と呼ぶ。 ”援助”なら文字通り助けてもらうことだが、”合作”だと日本と中国が共同で何かを成し遂げるというニュアンスが強い。

”下位の日本”が”上位の中国”を助けるといった事実を受け入れることは、中国人として絶対に認められないということだろう。

また、近年日中関係の焦点のひとつとなっている靖国問題に代表されるように、中国の指導者はあたかも自らの征服地の住民に接するような態度で、日本に内政干渉を繰り返す。 歴史問題でも「文明国である中国が野蛮で憐れな日本に正しい歴史を教えてやる」といった態度だ。

もしこうしたことがなくなるとすれば、それは日本が”中国の偉大さ”に敬意を払い、中国が絶対上位で日本が下位という国際秩序を受け入れた時か、再び中国の国力が大きく減衰したときだけかもしれない。

 今現在は、日本と中国の力関係は拮抗した状態にあり、それだけに日中間の摩擦は激しいものになっている。

中国が共産党独裁体制つまり北京の”皇帝”や”宦官”たちによる専制政治を維持したまま国力を増大させて、日本や独・仏・英といったEU諸国をはるかに上回るパワーを手に入れ、ついにアメリカと匹敵する大国となるような事態が現実のものになると、将来、深刻な危機が発生する可能性がある。

日本が中国にひれ伏すようなことがあれば、東アジアにおける華夷秩序は100年ぶりに”完全復活”し、中国に逆らえる国はなくなるだろう。

それによって中国は、地域内において外交的フリーハンドを持つアジア一の大国になるという悲願を達成する。 台湾を併呑したり、東・南シナ海を中国の内海とするのも容易になるだろう。

そして中国が世界一の大国となり、華夷秩序をアジアだけでなく欧州やアメリカ大陸といったアジア世界以外に広げることに成功すれば、「主権国家同士は対等・平等の権利を持つ」という現在の国際秩序は破壊されることになる。

日本や欧米の研究者は、二千年以上の歴史を持つ中華思想や華夷秩序について、もっと注目すべきではないだろうか。

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  • 2006/09/26(火) 16:42:08

この記事に対するコメント

いや、まったく素晴しい

一連の中国関連コラム拝読しました、私は(キムを除くコメントを含めた)これほどの知識と情報を無料で吸収できるネットと言うシステムとその作品を認めたクロフネさんに感謝の意を伝えずに居られません。大袈裟かもしれませんが、これが今の私の本音です。
そう言う訳で次の北朝鮮関係のコラムを楽しませて戴きます。では又

  • 投稿者: 火天大有
  • 2007/08/22(水) 22:03:31
  • [編集]

火天大有さん

>これほどの知識と情報を無料で吸収できるネットと言うシステムとその作品を認めたクロフネさんに感謝の意を伝えずに居られません。

火天大有さんのお役に立ったのであれば、私にとっても喜びであります。

自分を育ててくれた日本という国への恩返しという意味もあって、まあ、ボチボチやっております。

  • 投稿者: クロフネ@管理人
  • 2007/08/23(木) 21:42:08
  • [編集]

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