第10回 北朝鮮の核兵器開発問題にどう対応すべきか
- 2005/02/25(金) 17:40:37
北朝鮮の核開発問題について日本はどう対応すべきだろうか。
それに対して適切な答えを出すためには北の核開発がどの程度まで進展しているかが関係してくる。
しかしながらそれについては、まだ脅威となるレベルまでいっていないという意見から、数発の核爆弾を完成させたという情報も有り、信頼の置ける確実な情報はない。
北の核開発が初期段階であればアメリカ軍の先制攻撃というシナリオも可能性としてありうるが、情報が不足している現在、先制攻撃というオプションはリスクが高すぎる。
日本政府は主に六ヶ国協議を通して北朝鮮に核開発を中止させる政策をとっているが、この政策に多くは期待できない事、北朝鮮は各国の説得をふりきって、核兵器と弾道ミサイルの実戦配備まで突き進む可能性が高いことは以前述べた通りである。(第4回参照)
日本としては日朝交渉や六ヶ国協議を通じて北朝鮮に核開発を中止するよう働きかけ続ける事はもちろん重要だが、北が核ミサイル配備を済ませてしまったシナリオを想定して政策を策定すべき段階に来ていると思う。
その場合に日本の選択肢は限られている。アメリカの核兵器によって防衛された日本が、核保有した北朝鮮に応対するミニ冷戦の開始である。
そしてみずからの武装の重みに押しつぶされるなどの北朝鮮の失策を辛抱強く待ち、北朝鮮の体制崩壊をもって核兵器の武装解除と拉致被害者の奪還をはかるのである。
重武装の負担に耐えきれなくなった北朝鮮が、再び交渉のテーブルにつかざるを得なくなるシナリオも充分あるだろう。
かつての米ソ冷戦を終わらせたのは、共和党・レーガン政権の毅然とした安全保障政策であった。ソビエトはその重武装ゆえの重みに耐えきれず自壊した。彼は自由主義世界を全体主義から守ったのである。
だがレーガンの前任者、民主党カーター政権はまったく対照的であった。
”人権外交”をかかげたカーターは”ソビエトの善意”に期待してアメリカの核戦力を一方的に削減したが、アメリカの軍事力の低下と力の行使を表明しないカーターの政策がもたらしたものは、皮肉な事に新たな戦争と革命の混乱だった。
クレムリンの独裁者(ソ連首脳)はカーターを”いい人”というよりむしろ”腰抜け”とみた。
そしてアメリカの反発と軍事介入は無いと確信して、中東での影響力拡大のためにアフガニスタンにソ連軍を侵攻させた。これが今日まで続くアフガニスタンの内戦と混乱の発端である。(忘れ去られた内戦)
同時期にイラン帝国でイスラム原理主義革命がおこったときも、カーターは皇帝パーレビを”見殺し”にした。結果としてアメリカは中東における第一の同盟国を失ったのみにあらず、のちにサウジやクウェートなど他の同盟国を守るために多大な苦労をする事になるのである。(1979年に生まれたロキの子供たち?)
イギリス外務省のシノロジスト(中国専門家)で、サッチャー首相の顧問だったサー・パーシー・クラドックは自らの回顧録で、カーターほど小平などの中国人から軽く見られたアメリカ大統領はいなかったと書いている。
「覇権主義はとらないし我が国の軍事力はあくまで自衛的なものだ」といった美辞麗句とは裏腹に、ソビエトや中国・北朝鮮といった全体主義独裁国家のトップにとっては軍事力こそ自分の権力の源泉であり、軍事力の大小が権力の強弱に比例する。
そしてライバルの軍事力の弱さはライバルそのものの弱さであり、彼らにとって侮蔑の対象にはなっても尊敬には値しない。
である以上、日本の「軍事力は少ないほど良い」といった価値観は通用しないのである。
そういった意味でいえば近年の日本の指導者はすべて”カーター”であった。しかしながら独裁者が統治する北朝鮮に応対する日本のリーダーとしてふさわしいのは”ジミー・カーター”ではなく”ロナルド・レーガン”なのではないだろうか。
日本の一部世論には、北朝鮮のミサイルを防ぐ手段が無いから制裁はダメだというものもあるようだが、彼らは歴史から何を学んだのか?
ソ連のミサイルを防ぐ手段のなかったアメリカ・イギリス・フランス・ドイツが、ソ連の全体主義に降参しただろうか?
最後にまとめとして、日朝関係において日本が関心を持つべきなのは拉致問題と核開発問題の解決である。
国交正常化などは二次的な問題であり、前記のニ問題が解決されるならば北朝鮮に深く介入する必要性は、日本の国益上あまり感じられない。
感情に流されながら北とかかわるならば手痛いしっぺ返しをくらうだろう。
第9回 拉致問題でどう交渉すべきか(その3)
- 2005/02/25(金) 17:35:38
「経済制裁をすれば日本が弾道ミサイルなどの攻撃を受ける」という見方が一部の政府の人間や評論家にあるらしいが、その可能性は極めて少ないと思われる。
北の核兵器や弾道ミサイルは、アメリカから先制攻撃を受けて金正日体制が崩壊しないためのカードであって、北からアメリカやその同盟国を先制攻撃するためのカードではないことは既に述べた。(第3回・第4回参照)
ミサイルが飛んでくるから制裁は反対だという人は金正日の身になって冷静に考えたら良いだろう。
飛行機が怖くて北京どころかモスクワまで列車で行くような男が、自分の命と引き換えに日本にミサイルを打ちこんで割に合うと考えるかどうかを。たとえ日本にミサイルを発射したとしても全世界に展開するアメリカ軍のほとんどは無傷だという事実を。
北が核ミサイルを撃つとすれば、それはアメリカの核による先制攻撃を受けた後だろう。
結局、経済制裁をすれば平壌放送のアナウンサーがヒステリックに絶叫するだろうが、どんなに勇ましい言葉を並べてみても、北はたいしたことはできまい。
もし北が公式に日本に対する戦争をほのめかすのであれば、公式ルートでもミスターXでもいいから北にいってやればいい、「日本は事態の平和的解決を願っているが、北朝鮮が日本を攻撃するなら、アメリカが黙っていないだろう」と。
それでも心配だというなら水道の蛇口を徐々に閉めるように段階的に、日本から北朝鮮へのカネ、モノ、ヒトの流れをしぼれば良いだろう。
それでも北が拉致被害者を帰さず、交渉にのらないというのなら自滅への道を歩むだけだ。
そうなれば拉致被害者が日本に戻れるかもしれない。
北を崩壊させまいとして中国や韓国が北を援助し、日本に対して制裁をやめるよう説得しにくるかもしれないが、その時は「拉致問題が解決すれば制裁は止める。中国・韓国が北をそのように説得すべきだ」と言えば良い。まず経済制裁カードを日本が切る事が問題解決の第一歩となる。
このままでは北から出てくるのはせいぜい、誰のものとも知れない人骨やらニセの書類といったガラクタがいいところだろう。
これ以上拙劣な交渉をくり返し、時間を無駄にしていては、取り返せるものも取り返せなくなる。
何の罪も無い日本国民を拉致・誘拐して殺害したことは、北朝鮮の許しがたい犯罪行為であるが、同時に日本政府・外務省の安全保障政策の手痛い失策でもあった。
政府・外務省は、もうこれ以上、失策の上に失策を重ねてはいけない。
↑あなたのワン・クリックがこの国を変えます。
第8回 拉致問題でどう交渉すべきか(その2)
- 2005/02/25(金) 17:25:08
ただ、このままの状態では現在と変わらないので、問題の解決へ向けて前進とはならないだろう。日本政府は例によって、北朝鮮にたいして拉致被害者の調査資料の提供を要請し続けている。
日本政府・外務省の十八番(おはこ)である”要請”だが、北がこれに応じて問題解決につながるとは思えない。”要請”に応えても北朝鮮側にとって得るところは何も無いからである。
もし拉致被害者が北朝鮮の権力中枢部を知りすぎてしまった人々だった場合、拉致被害者を日本に帰国させたり、彼らの正確な資料を日本側に渡す事は北朝鮮にとって損失以外の何物でもない。
その意味で”WIN-LOSE”なのである。日朝双方にとって”WIN-WIN”でなければ、交渉がまとまることはないだろう。
(私自身は死亡とされた拉致被害者の方々は北朝鮮中枢で重要な役割を果たしていたと推測する。その何割か、あるいは全員が生存している可能性も充分あると考える。逆に蓮池さんや曽我さん達は、北の権力中枢に深く関与しなかったことが生還につながったといえよう)
それではどうすれば”WIN-WIN”にもっていけるのだろうか。
まず拉致被害者ひとりひとりにたいして、賠償金を要求すべきである。
死亡者については、たとえば日本人の生涯収入に慰謝料を含めて三億円、生還者については慰謝料として一億円といった具合に格差をつければ、北朝鮮当局に「拉致被害者をなるべく生きて帰そう」という動機付けが与えられるかもしれない。
そして日本側最強のカードは経済制裁である。これを今こそ切るべきである。
第一回日朝首脳会談で金正日が日本人の拉致を認めて以降、日朝貿易はダメージを受けてかなり減少し、変わりに中国や韓国との貿易量が増えたという。それを理由に、「効果がないから日本は経済制裁をやるべきではない」という人もいる。
しかしそれはとんでもない誤りである。
殺人犯を刑務所にいれたが反省してない。刑務所は効果が無いから、無罪にして自由にしてやるべきだと言っているのと同じことだ。
それに1セントでも外貨が欲しい北朝鮮にとって日本からのカネやモノ、ヒトの流れがストップすれば打撃は決して少なくない。
朝鮮中央放送などの北朝鮮マスコミで、「経済制裁をすれば対抗措置をとる」というヒステリックな声明が何度も放送されているし、さきの日朝実務者協議の北朝鮮代表のコメントをみても、北朝鮮が経済制裁を恐れているのは明々白々だ。
もし制裁が本当に効果がないのであれば北があえて大騒ぎすることもないだろう。
逆に、「効果がないから日本は経済制裁をやるべきではない」という人は、経済制裁の効果があった結果、北朝鮮に瞬時に崩壊されても困るという事実もわかっていない。
制裁の効果は、北朝鮮にじわじわと影響が出るぐらいが一番望ましいだろう。そうでなければ、北と交渉さえできないではないか。
だからこそ、効果が限定的な現在の状況で、経済制裁という手段が有効なのである。そして経済制裁カードを切ってこそ日本の怒り、被害者を絶対に取り戻すという強い決意を北に理解させる事ができるのである。
(場合によっては「経済制裁をやるぞ」と宣言せずにこっそりとやってしまうのもいいかもしれない)
あせった北は当然強く反発するだろう。
しかしそこで終わりではなく、日本が制裁カードを切った後、あらためて日本側から「制裁を解除してほしくば(日本から外貨を儲けたければ)拉致被害者全員を帰国させよ」「拉致被害者を全員返して、はじめて北朝鮮の望む国交正常化交渉に進む事ができる」という具合に北朝鮮と交渉するのだ。
日本人拉致被害者が日本に帰国し、日本が経済制裁を解除して北朝鮮が日本でカネもうけをする権利を再び得られれば日朝双方にとって”WIN-WIN”となる。
経済が苦しい北朝鮮にとって日本と拉致問題交渉をまとめようという、強い動機付けとなると思われる。
また、一部マスコミで「感情的になって経済制裁すべきではない」という論調もみかけるが、まったく幼稚というほかない。
日本人は例え腹が立っても、ガマンしてガマンして、すぐにホンネを出さずに対立を避ける習慣がある。
そしてホンネを出す時、つまり口ゲンカや殴り合いになった時というのは、もはや感情が爆発して、話し合いも後戻りもできない決定的な破局を意味する。だから日本人は外国とのつきあいがヘタなのではないだろうか。
おおかたの外国人はそうでは無い。対立をかくさずに口ゲンカをまずしてから、「じゃあ、お互いどうしましょうか」と冷静に交渉・取引に入る。
経済制裁というカードを切るということはこれと同じで、問題解決のために、冷静に波及効果を推理・分析した上でとられる高度な戦略である。そして制裁の後に当然交渉の可能性がある。
「感情的になって経済制裁すべきではない」という主張は、自分の幼稚な対人コミュニケーションと、一国の高度な外交手段をごっちゃにしているとしか思えない。
↑あなたのワン・クリックがこの国を変えます。
第7回 拉致問題でどう交渉すべきか(その1)
- 2005/02/25(金) 17:02:25
北朝鮮の日本人拉致問題についてどう交渉するかを考えるその前に、
今まで日本側が交渉の席で拉致問題をとりあげると、机をたたいて怒り狂って部屋から出ていってしまっていた北朝鮮側が、なぜ小泉首相と金正日の日朝首脳会談に応じて自ら拉致を認め、日本と交渉する気になったのかについて整理しておく必要がある。
それはなぜかと言えば、なんといっても北朝鮮経済が手の打ちようの無い程、ゆきずまってしまったということにつきる。
そして共産圏の同盟国が続々と倒れてゆき、もはや”友好価格”やバーター取引で必需品を海外から輸入して全てをまかなうことも不可能になった。決済にも紙くずに等しい北朝鮮ウオンを受け取る国はおらず、多くはドルやユーロ、円といったハードカレンシーを要求され貿易もままならない。
いうなれば、もはや日本側に罵詈雑言をはなち、交渉のテーブルをたたいて部屋を出て行くなどという余裕はなくなったということだ。
そのような状況で北朝鮮首脳陣からでてきたのが、拉致を認めれば日本と国交正常化が達成され、巨額の”過去の被害の賠償金”が外貨で入って来て、北朝鮮経済は一息つけるというアイデアだったのだろう。
このようにずさんな、北朝鮮にだけ都合の良い自分勝手な見通しに基づいた外交戦略を臆面も無く実行してくるあたりに、北朝鮮政府のブレーンの質がいかに低下しているかがうかがえる。
そして果たせるかな、拉致問題の完全な解決を求める日本と、拉致問題はもう解決したのだから国交正常化を(ひらたく言えばカネをよこせという意味だが)要求する北朝鮮との間で膠着状態に陥ってしまっているのが現在の状況と言える。
北の「拉致問題の解決はもう、うやむやにしたい。カネだけ欲しいのだ」といった姿勢は2004年11月9日に開催された日朝実務者協議での北朝鮮代表の鄭泰和大使の発言、「日朝関係の改善に前提条件をつけるのはよくない」や、
10日の馬哲洙局長の発言「拉致問題が残っているが双方が努力し国交正常化へ向けた進展が出来る事を希望する。国交正常化を最優先課題にすべき」といったところに如実にあらわれている。
このような状況において拉致問題解決のためにしてはならないことは、拉致問題の完全な解決が得られないうちに、北にカネやコメを与えてしまうということである。
北が欲しいのは、いいかえれば日本に用事があるのは、まさにカネだけであって拉致問題の解決でも国交正常化でもない。
カネを先にやってしまえば北の拉致問題解決のモチベーションはゼロになるといってよい。
勘違いしてはならないのは、日本の国益にとって最重要なのは拉致問題の解決であって国交正常化ではない。極論すれば、もし国交正常化を犠牲にして拉致被害者が帰ってくるのならば北との国交正常化など必要無いのだ。
そのことを首相から一外交官まで肝に銘じなければならない。
北と国交正常化すれば歴史に名が残り、平壌に日本大使館が開設されれば外務省員にとっての出世ポストが一つ増え、外務省の予算も増えるかもしれないが、そんなものは国益でもなんでも無い。
----------------------------------------
★関連図書―もっとくわしく知りたい人は...
北朝鮮利権の真相
◆北朝鮮利権にむらがり真の国益を忘れた外交が、日本をいかに不幸にしてきたかをあばいた衝撃の本。